Voices
12月4日[2025]
漆塗りの楽器作り、楽曲制作、演奏、プロデュース… マルチに才能を発揮する少壮のアーティスト・山之内厳駿
2025年春、VS.宛に1通のメッセージが届いた。差出人は山之内厳駿。京都市立芸術大学の院生で、漆塗りの楽器の制作・演奏活動を行っており、ぜひVS.で展示・演奏の機会を持ちたい、とある。さらに話を聞いてみると活動の新しさ・豊かさ、作品の完成度、何より沸き上がってくる熱量がとてつもない。この類まれな若い才能に注目し、来たる12月7日にVS.presentsの演奏会を開催することが決まった。公演を直前に控えた山之内氏に思いを聞く。これは山之内氏にとってはもちろん、クリエイティブを生み出す「文化装置」を以て任ずるVS.にとっても、新たなステージへと踏み出す第一歩となりそうだ。

楽器作りから作品プロデュースまで
活動の源泉にある「人とのつながり」
――山之内さんが楽器の制作を始められたきっかけは何ですか?
私は工芸科専攻ですが、個性の集まる場で少しでも目立つことをしたいと思ったのがきっかけです(笑)。もともと木を扱うのは好きだったのですが、小学生の頃からフォークギターを弾き始め、美術系の高校ではバンド活動をしていたりと、音楽も身近な存在でした。そんな自分だからこそできることとして「構造物から音楽を考える」、そして「音を作る仕組みから全て自身で作りたい」と考えるようになりました。
最初に作ったのはギターでした。まずは職人さんを探して、自分でギターを組み上げるところから始めました。ギター職人の川本さんの格好良さに惹かれて、それからずっとクラシックギターを弾いています。
――その後、ギター以外の楽器作りを始めたと伺ったのですが、そのきっかけや制作過程で苦労されたことなど教えてください。
マリンバは、ほぼ独学で作りました。川本さんの息子さんが資料を見つけてくださり、それを基に設計図におこしました。少しずつ作っては、知り合いのマリンビストに試しに弾いてもらい、何度も調整を繰り返しました。
また、私は蓮沼執太さんというアーティストのファンで、蓮沼さん率いる「蓮沼執太フィル」のマリンビスト・K-taさんにもご協力いただきました。K-taさんは、レコーディングにも参加いただきました。
他には、クラヴィコードも作りました。ある時、蓮沼さんから「クラヴィコードを作ってみて」と言われたことがきっかけでした。それまで鍵盤楽器は難しいので避けていたのですが、まず大学のピアノ科の先生に相談し、山野辺暁彦さんという職人さんを紹介してもらい、泊まり込みで教えていただきました。後日、完成品を蓮沼さんに見せると「本当に作ったの!?」とすごく驚かれました(笑)。
――今後はミュージシャンの方から楽器制作のオファーがあった場合、提供・販売するという可能性もあるのでしょうか?
以前は自分の作品として完結していましたが、最近ではそういう機会もいただいています。ただ、漆塗りの楽器自体は和楽器など古くからあるので、それほど新しい試みではないかもしれません。自分で楽器を作り演奏する、さらには曲も作って楽団プロデュースする点に、私の独自性があるのではと思います。
――山之内さんの曲には生楽器だけでなく、シンセサイザーも取り入れておられますね。
山之内フィルのメンバーから「シンセを入れた方が面白い、アンビエント感が増すのでは?」と提案されたのがきっかけです。私自身は生楽器にこだわりがあったので、最初は少し抵抗がありましたが、「他人の意見を入れてみる」ということも大事だと思い、納得できる着地点を探していきました。
私は、作曲するといいつつも実は楽譜を読めないし書けないので、自身で音を打ち込んでからそのMIDIデータを楽譜に起こしています。その譜面をもとに大学の作曲専攻の人に相談しながら修正を重ね、さらに直接メンバーとディスカッションして曲を完成させます。
――山之内さんの作品のいくつかは、ポエトリーも印象的ですね。
詩は、朗読担当の髙田清花さんによるものです。出会いのきっかけはSNSで、マリンバの制作過程をSNSに上げていたら、髙田さんからフォローいただいたのが始まりです。彼女は東京藝術大学の先端芸術表現科を専攻し、「校歌再生」プロジェクトを手がけておられました。私自身も音楽や歴史をまとめ上げていく試みに興味を持ち、交流を深めていき、作詩・朗読として参加していただくことになりました。
これまでにヴォーカルを入れることも検討したのですが、私自身やはり楽器の音色に注目してほしいという考えがあり、主旋律は楽器で、一部朗読が入るというのがバランス良く感じています。
――山之内さんにとって楽器作りも楽曲制作どちらも人とのつながりによって積み上げられていると感じますね。
私も本当にそう思います。一人で全てやるのではなく、周りの人と関わりながら楽器や曲を作ることで自分の範疇にないものが生まれ、抵抗があったものを受け止めて新しいことをやるきっかけができる。そこには想定外の可能性が膨らんでいく面白さがありますね。
縁を感じるVS.で未知の音色を奏でる
「VS. 山之内厳駿 “全方位型”」
――今回、VS.で演奏会をやりたいと思ったきっかけを教えてください。
まずJR大阪駅近くという立地は大きな魅力でした。しかも建築家・安藤忠雄さん監修の建物で、ぜひここで演奏会をやりたい!と思って自分からアプローチし、VS.の方々とお話しできることに。すると、VS.と私の活動が不思議と重なり合う点が多いことに気づきました。
たとえばVS.では、これまで坂本龍一さんの企画展「sakamotocommon OSAKA」をはじめ、尊敬する蓮沼執太さんのライブやバシェの音響彫刻展示などが行われました。私自身も昨年、東京都現代美術館で開催された「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」のイベントでクラヴィコードを提供しており、蓮沼さんとのつながりもありました。大学でお世話になっている教授がバシェ協会の理事で、バシェのプロジェクトにも以前から関わってきた点も、何か通じるものがありましたね。
――今回の演奏会に向けての意気込みと注目すべき点を教えてください。
まずオープニングアクトで2組のゲストが登場し、私の楽器を使って弾き語りしていただきます。そして、今回の演奏会のために新しく2曲書き下ろしました。「BIRTH」という曲は、チェンバロが主旋律。私たちのパートは全編が映像とのコラボレーションですが、「BIRTH」では映像監督の小林ミミさんによるドキュメンタリー映像を使い、誕生の喜びを表現しています。
もう一つの新曲「SPIRAL」は、クラヴィコードが主旋律で、同じフレーズがずっと繰り返される。いずれもSTUDIO Aの響き方をイメージしており、音数も少なめで、アコースティックな弦の振動が、あの空間でどう増幅されるか、ぜひご期待ください。
――VS.の中でも特徴的な、天井高15mのSTUDIO Aでの演奏となりますね。
イベント名にある「全方位型」は、演奏の場面で対面する他、私の楽器をほかの人に使ってもらったり、私の作曲に合わせて映像を作ってもらったりと、私といろんなアーティストたちが対峙するという意味が込められています。
生楽器もあればエレクトリックもあり、ドラムやベースも入る。あの特殊な空間の響きの中でアンサンブルを作るのは、私達以上にPAさんが大変だと思います。山根翔吾さんといって、琴や、古楽器のPAもよくされている方にずっとお願いしているのですが、実際どうなるのか、自分でも想像できません。ただ不安よりもワクワク感や楽しみの方が強く、お客さんには音の響きを想像してもらいながら、私達はその想像を飛び超えるステージでお迎えします!


