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9月18日[2026]

Kotaro Danno

都市のダイナミズムを生み出すキーワード。日建設計・團野浩太郎が見据える都市開発における、建築の役割

VS.には数々のユニークな特性がある。高さ15mという唯一無二の展示空間をはじめ、大阪駅前の立地、地下に広がる空間、等々。その中でも、うめきた公園という開かれた場所に立地することの意味を最も本質的に捉えているのは、日建設計所属の建築士・團野浩太郎氏かもしれない。VS.をはじめ、うめきた公園内に点在する各施設の設計を担当した團野氏が、VS.に、そして都市デザインに期待することとは。氏がこれまで関わってきた仕事をたどっていくと、「都市開発」が担うべき役割の輪郭が見えてきた。

「誰でも入れて面白い」。
囲い込まない建築が都市の体験を拡張する

NIKKEN Kotaro Danno
團野浩太郎

日建設計という組織の中で仕事している以上、一人ではなくチームで設計しており僕自身のスタイルにこだわることはありませんし、それに捉われない方がさまざまな問題に対して自由でいられます。ただ、できあがった建築を通覧した時に、結果的に「團野らしさ」といっていただけるものが浮かび上がるとすれば、設計者としてはうれしいです。

MIYASHITA PARKは、もともと1階が駐車場・2階が公園だった宮下公園を取り壊し、1~3階を商業施設に、公園を4階に作り直すプロジェクト。「公園=みんなの場所」の意義をそのままに、渋谷区、デベロッパー、地域の人、訪れる人、みんながハッピーである建築のあり方は何か。僕たちが最も意識したのは「この建築が渋谷を分断するものになってはいけない」ということでした。

まず考えたのが、商業フロアの通路の在り方。真中に通路、両側に店舗、という一般的な配置(インナーモール型)の方が商業面で貸床が大きくメリットは大きいけれど、その建ち方ですとファサードには人の流れが見えず窓のない壁面となり、都市の動線を遮ってしまう。逆に、店舗が並ぶ外側に通路を作るアウターモール型なら、その外部通路を歩くことは渋谷の街を歩く体験の延長になり、また街からは外部通路を人が歩いているのが見えることで、そこに「行ってみたい」と思わせる。都市を歩くことで想起される体験が、この建築によって拡張される構造です。

もう一つは、上部のキャノピー(大屋根)です。これがあることで、街を歩きながら見上げた時にキャノピーの裏側が見え、「あそこに何か空間があるぞ」と想起させることができる。さらにキャノピーのアーチが1~3階のアウターモールを覆い地上とつながっていることで、この4フロアの施設全体をひっくるめて公園と捉えられるようにする。「公園的」な体験が都市へ拡張され、結果的に「みんなの場所」が増える、という考え方です。

誰でも入れる面白い空間やパブリックスペースを増やしたい、と常に思っています。うめきた公園もそうです。限られた人、お金を払った人だけが体験できる形ではない力学で魅力を作り出すことで、都市のダイナミズムが生まれてくると考えています。

社会の在り方をサポートし、
牽引する「建築の力」

NIKKEN Kotaro Danno
團野浩太郎

今取りかかっているのが、母校でもある早稲田大学理工学部52・53・54号館建替え工事です。今年竣工した52号館は、既存校舎を改修保存しつつ、その上に宙に浮かせる形で新館を増築しました。新旧の切り替え部となるフロアはパブリックスペースとし、学生たちが集まって勉強したり議論する新しい「中庭」のような空間になっています。この4階はパークフロアと呼んでおり、今後53,59号館をつなぎ水平に230mの長さでつなげていく予定です。下から見上げた時に「あそこ何だろう、行ってみたいな」と思わせる、キャンパスでの体験を拡張するものを目指しています。MIYASHITA PARKと同じ考え方ですね。ただ増築するだけではなく、工事を介して新たな「みんなの場所」を生み出す…これは日建設計としてのDNAかもしれません。

この工事で特筆すべきなのが、既存校舎を「使いながら」…学生が授業を受けている最中の建物の横に柱を立て、上部をトラスでつなぎ、上から各階床を吊り下ろして増築していったことです。この成果は、施工者の情熱と施工技術によるところももちろん大きいのですが、今後この考え方は都市の再開発にも応用できるかもしれません。再開発って、ともすれば「土地の記憶の破壊」と捉えられてしまう。でも街で人々が生活しているまま上にビルを建てていくことで、土地の記憶を残しながらも利益を生み出せる、まったく新しい形での都市の更新の可能性が広がるとも思います。

NIKKEN Kotaro Danno
團野浩太郎

いろんな人が、入れ代わり立ち代わり出たり入ったりしてどんどん変わっていく、その中で色々な物語が生まれる。その物語の重層によって生まれる都市のダイナミズム、人が集まって住み暮らす面白さはそこにあると思います。でも近年の不動産価格の高騰はそれを阻止してしまう。そこでたとえば、すごく安くて広いけど風呂トイレキッチンは共同、みたいな家…新しいスタイルの団地のようなものを、行政と協力して作れないかな、と考えています。150平米で家族をたくさん作れるけど人を選ばない家賃、共同のキッチンで隣の人とレシピを教え合ったり、お風呂でいつものおじいちゃんに会うような。そこには分譲のタワーマンションとは異なる豊かさがある。広さと低価格を担保することで、若い人が子どもを持つことに躊躇がなくなる、そんな社会の在り方を、建築がサポートすることができると思っています。

僕が個人事務所でなく大きな組織の中で働いている理由はここにあります。組織にいることで、関係者が多くて縛りも多くとにかく面倒で時間がかかる、そのことによって誰も建築にしたことがない社会的プロジェクトを手がけられる。社会の流れに乗ったものを作ることで、今そこにある問題を可視化できれば、建築家として一定の役割を果たせるのではないでしょうか。

「公園の中のVS.」が持つ
文化装置としての可能性

NIKKEN Kotaro Danno
團野浩太郎

特に意識したのは、地上の公園=緑、癒し、やさしさなどのイメージが、地下に降りると一転、全く異なるエッジイな空間がある、というギャップの部分でした。

今年11月にノースパーク「うめきたの森」が完成し、来春には晴れてうめきた公園が全面オープンします。滝ができて水が流れ、新梅田シティの里山とつながっていろんな動植物が集まるようになるでしょう。そこでたとえば、小学生が学校帰りに公園で道草していて、ふとガラス窓の隙間から、今まで経験したことがない鮮烈な展示がチラ見えし、その子の感性に何らかの刺激を与え、世界の広がりを感じさせるような、予期しない情報と出会うかもしれない。そんな風に、僕の敬愛する哲学者・東浩紀さんの言う「誤配」が起こりうる場になること。それこそが公園にVS.を埋め込んだ価値であり、「文化装置」の役割ではないでしょうか。そういった連鎖を、100年先まで見据えて作り出していってほしい。

VS.は、いわゆる美術館のようなホワイトキューブではありません。特にホワイエは、滝裏にある削られた大地そのもののように、壁が見えていたり、V字の柱に支えられた貫通通路が見えていたり、滝裏の陽光や道路側の灯が射したりという、他にない空間体験ができる場所です。あの空間のもつ特異性が展示者のイマジネーションを刺激し、ここから発信して東京へ、世界へと羽ばたくものが生まれてくることを期待しています。

©Nacása & Partners
MIYASHITA PARK:4階の公園フロアからアーチを伝って植栽が地上へとつながる。ともすれば威圧的に街を分断しかねない4層の建築が、開かれた公園として都市を拡張していく。

※MIYASHITA PARK事業概要
施設名:MIYASHITA PARK
所在地:東京都渋谷区
主要用途:都市計画公園 店舗 ホテル 駐車場
建築主:三井不動産
リードアーキテクト:竹中工務店(基本設計・実施設計・設計監理)
プロジェクトアーキテクト:日建設計(基本計画・基本設計・商業デザイン監修)

©Takuya Seki
早稲田大学理工学部52号館:既存の52号館の上に荷重をかけることはできないので、増築部分を宙に浮かせることは大前提。その切り替え部にパブリックスペースを作り、地上からもその体験を想像させるよう設えるのが「日建設計のDNA」。
Photo by VS.
V Space(VS.ホワイエ):V字の柱に支えられた通路は、VS.の展示空間の真上に「めり込んだ」公園の無料開放通路。たまたまここを通りかかった人に、衝撃的な偶然の出会いを引き起こす可能性を秘めている。