Voices
10月14日[2025]
LIN Kun-Ying
キーワードは「ミックスカルチャー」。台湾のリアルを伝える「We TAIWAN」プロジェクト – LIN Kun-Ying
2025年8月2日~20日、台湾の最新の文化や芸術、テクノロジーなどをさまざまな角度から発信するプロジェクト「We TAIWAN」が、大阪を舞台に繰り広げられた。ここVS.では「台湾スペクトル」と題し、台湾の自然や歴史、文化、現代アートなどを、「色彩」を切り口としたエキシビジョンで展開した。キュレーションを手がけるのは、アートユニット「Luxuary Logico」などで活躍するアーティスト・クリエイティブディレクターのLIN Kun-Ying(林昆穎)氏。彼が本プロジェクトで目指したもの、そして台湾アート事情の現在を聞いた。
文化の混淆を「色彩」で表現
「台湾スペクトル」の見どころとは
――本プロジェクトは、VS.と中之島をメイン会場に、大阪の街全体を使って行われましたね。LINさんはVS.での展示「台湾スペクトル」のキュレーターを務めていただきましたが、具体的にどのような展示だったのでしょうか。
「We TAIWAN」は、大阪・関西万博の理念に呼応して「未来を応援する、奇跡の島」をテーマに行った、台湾文化部主催のイベントです。2024年のパリ五輪に連動して行われた文化プログラムの成功を踏まえ、再び国際イベントの開催地で台湾文化を発信しようと考えました。
台湾は、さまざまな文化が混ざり合った、彩り豊かな社会です。VS.ではこれを表現するために「色彩の融合」をメインテーマとし、「見る」「触れる」「聞く」3つのアプローチで展開しました。
1つめの「見る」色彩は、ビジュアルシアター「台湾本色(True Colors of Taiwan)」。国立台湾美術館の協力を得て、台湾の歴代の巨匠から現代の作家まで100作品以上の絵画を映像化し大きく投影しました。これにはVS.で最も特徴的なSTUDIO A、天井高15mの大空間を使いました。絵画の世界に入り込んだような没入感の中で、台湾の山や海、光と影がどんな色彩で芸術の中に表現されてきたかを追体験していただけます。なお、投影スクリーンには最新のテクノロジーで開発された、紙のような質感を持つ素材を採用、本来の絵画の見え方を再現しました。
2つめの「光織自然(Lightwoven Nature)」は「触れる」色彩。台湾の多様な植物から取り出す天然の染料を使った、染織文化にフォーカスしています。ここでは染織工芸作家のCHEN Shing-Lin(陳景林)さんをお迎えしました。この方の作品は、台湾の海の色、山の色などを染織で表現するもの。天然藍による絞り染めの大型作品『母なる台湾の河』のほか、彼の長年の研究による、天然染料で台湾の伝統色を復元した『台湾色彩スペクトル』も展示しました。
3つめ、音と光のファンタジー「島嶼聲譜(Island Soundscape)」は「聞く」色彩。日本語でも「声色」「音色」などと言いますね。台湾はいろんな音が混ざった賑やかな国で、山の音、海の音、街の中ならスクーターの音、機械音、雨や風の音もいつも聞こえてきます。ここでは台湾のさまざまな音をコラージュしたサウンドスケープと、台湾特有種の生物をモチーフにした神獣のインスタレーションを融合させ、音と光が交わる空間を作りました。
STUDIO Cで体験いただく『Hard, Hard』はLuxuary Logicoの作品で、台湾でも何度か展示しているものですが、今回は日台交流バージョン。日本統治時代の台湾の風景をモチーフに、一つのランプが周遊していろんなストーリーを語っていくものです。
――キュレーターとして特に意識されたことはありますか?
台湾を代表する国際イベントですので、これに参加することはアーティストとしても光栄なこと。ほかの作家さんたちもその気概で尽力してくださっており、展示作品はすべて新作です。キュレーターとしては、個別に作品紹介するのではなく、一つの大きな作品の中にいろんな作家の作品が見える、多彩な文化を一つの作品に盛り込むことを目標としました。
台湾という土地柄は、さまざまな文化、風土、考え方を混淆するのが得意です。私たちのユニットLuxuary Logicoも、何か一つのジャンルだけに軸足を置くのではなく、たとえばグラフィックからパフォーマンスにつなげる、といったハイブリッドな制作を重視しています。いろんな得意分野を持つアーティストたちが協力し、それぞれの要素を複雑に絡み合わせながら、テクニカルアートや建築作品、最近ではメカニックなど多彩な表現につなげています。
私自身は当初、1つめの「台湾本色」単体のアーティストとして参加予定だったのですが、あれやこれやでいつの間にかVS.会場全体のキュレーターに…(笑)。日本でキュレーターとして活動するのは初めてでもあり、本当に大変でしたが、何度も訪れるうちに、どんどん大阪が好きになってきました。大阪はとても賑やかな都市ですが、その中に静かさや穏やかさがある。私が生まれ育ったのは台湾東部の、大都会ではありませんが港のある賑やかな土地柄で、どこか大阪に似たところがあるんです。食べ物も美味しいですしね。
「VS.のようなハコが求められている!」
台湾メディアアートの現在
――今回、VS.を使われた感想はいかがでしたか?
VS.はとても先進的な文化装置ですね。本イベントでは台湾の最先端の技術も表現する必要があり、その点VS.ではとても未来感のある展示ができました。光や音などの展示の構想は、VS.があったからこそ生まれてきたものです。立地も良い。梅田という賑やかな都市の中心部でありながら、公園の一部というユルさもあります。この特性は台湾とも似ていますね。太平洋の中の小さな島でありながら、新しい技術を持つテクニカルアイランドでもある、という。
台湾では、特にこの10年ほど、アートとポップカルチャーを融合することがトレンドになっています。小さな島だからこそ、さまざまなカルチャーがミックスしやすい。今後は大きなアートフェスなども増えてくるでしょう。ただ、今の台湾には博物館や美術館はあっても、VS.のようなメディアアートに対応した会場がない。これから台湾でもこういったニューメディアを発表する場が必要になってくるし、その可能性が膨らんでいると、私自身も周囲のアーティストたちも感じています。
――今後、Luxuary LogicoやLINさんご自身が、「VS.で展示会を」という可能性は?
とてもありがたいご質問ですね。
Luxuary Logicoは、今年10月から、アーティストとして15年目にして初の個展を開催しています。テーマは「宇宙の庭」。台北の当代芸術館から始まり、来年4月には台中オペラハウス、11月に国立台湾科学教育館、と巡回予定で、台湾だけでなく海外への展開も構想しています。
VS.で設営作業をした数日間、ずっとこの会場での展示の可能性を考えていました。近いうちに、ここでもう一度皆さんにお会いできるとうれしいですね。


壁一面に並ぶ色相は、染織作家のCHEN Shing-Lin(陳景林)氏らによる、台湾の天然染料研究の成果。近年は色彩学、染色学、デザイン学などを融合させ、暮らしに応用可能な天然染色のデータベース構築を目指しているという

