Voices
9月26日[2024]
建築空間に共鳴する音響と映像。いよいよスタートしたVS.のオープニングを飾るアーティスト・真鍋大度の挑戦
2024年9月6日、まったく新しい文化装置「VS.」が産声を上げた。オープニングを飾るのが、アーティスト・真鍋大度氏によるエキシビション「Continuum Resonance:連続する共鳴」だ。真鍋大度とは誰なのか、またVS.を通して彼は何を目指すのか、そのオープン初日に問いかけてみた。
数学×音楽のコラボレーションから生まれる
まったく新しい音楽体験
――真鍋さんの活動は多岐にわたっていますが、最も軸足を置いておられる活動領域や、その原点について、まず教えていただけますか?
音楽とプログラミングを軸足に、表現活動を行っています。例えばプログラミングで音響を生成し、それを映像に変換するなどですね。既存のソフトを使って制作するのではなく、ソフトウェア自体を自分で作っているのが特徴です。もともと両親が音楽家で、母はヤマハのサウンドプログラマー、父はジャズベーシスト、という環境でした。僕自身はHIP HOPが好きで、DJから活動をスタートしてミュージシャンとしての活動もしていました。ただ、いわゆる音楽家としては、早々に才能の限界を感じていました。だからこそ既存の音楽のサンプリングやAI生成、さらには新しいツールにインスピレーションを受けて、新しい音楽を作り始めたわけです。
大学時代に数学を専攻していたのですが、このころ現代音楽家のヤニス・クセナキスに触れました。彼も学生時代に数学や建築を研究しており、その後音楽家となって、確率論や代数学を使って音楽を作ったり、大量の音を使って音像を作るような音響的な実験もしようとしていました。これにダイレクトに影響を受けています。
今は映像に寄った仕事の方が多く、注目されてもいますが、音楽や数学が関わってない仕事はほとんどありません。ミュージシャンとのコラボレーションや、音楽を解釈し直して映像に転換するなど、まず音楽ありき。自分のテンション的にも、音楽の作業の方が自然に、呼吸するように取り組むことができますね。
空間の静的データと鑑賞者の
動的データからリアルタイム生成される
インスタレーション
――今回の作品展は、[STUDIO C]→[STUDIO B]→[V Space]→[STUDIO A]と、4つの空間を巡回するように構成されていますね。
当初、これまでの活動を総括する計画だったのですが、安藤忠雄さん監修のこの建物にインパクトを受け、この空間をモチーフに新作を作る方針に転換しました。まずギャラリーを全てスキャンしてデータ化し、空間の構造からリズムパターンを生成しました。さらに、鑑賞者が入ることで動的な要因を加えています。
ここ1年ほど「PolyNodes」というシンセサイザーを作っていたのですが、そのパラメータに鑑賞者の位置情報や重心、移動方向などを入れて、音を変化させています。ここに、別に作曲したハーモニーを乗せてみたり、鑑賞者の位置情報によってエフェクトや鳴る位置が変わるようにしたり。同じ情報を映像ソフトにも投げているので、映像も完全に同期して生成されています。
1つめの[STUDIO C]の作品「PolyNodes Installation Debug Views」は、展示全体の導入部分としてセンサーの値をそのまま出力したものです。「自分の動きに映像や音が同期しているんだな」と、ここでまず仕組みを理解してもらえると思います。続く[STUDIO B]の作品「PolyNodes Visualization」と[V Space]の「PolyNodes Augmentation」は、それを応用・展開した作品です。
4つめの空間、最も天井の高い[STUDIO A]の作品「Synthesis of Body-Space-Music」は、リアルタイム生成ではなく、決まったコンテンツがループで上映されています。展示全体をコース料理と見立てると、デザートに当たります。ここでは鑑賞者は受身で、どっぷり没入して見ていただく。バウハウスで活躍した振付家・アーティストのオスカー・シュレンマーが、身体と空間と幾何学を使って視覚的な表現を行っていたのですが、その現代版としてPolyNodesを使って取り組んでみました。この作品は実際にダンサーに踊ってもらい、そのデータを使って音を生成しています。
1つの展示空間につき、およそ10分間程度のシークエンスですが、お客さんはそれにこだわらず、どこをどう切り取って、見て、感じていただいてもいい。音楽が好きならずっと目をつぶって音楽だけ聴いてもいいし、雰囲気だけ味わって写真を撮って帰る、でもいいと思っています。
――制作にはどのくらい時間をかけられましたか?
構想11ケ月・制作1ケ月、ぐらいでしょうか。コンテンツにする作業は、本当に最後の一部なんです。時間がかかるのはシステムの部分。僕のようにプログラムを使って作品を作るクリエイターは、まずソフトやシステムを作り、そこからコンテンツに仕上げていく、というプロセスが多いと思います。現場に入ってプロジェクターを置き、実際にスピーカーで流してみて初めてわかることや、さらにはお客さんが入って鑑賞する様子を見て気付くことも多い。これは、環境や鑑賞者の値を使って生成するメディアアートの宿命ですね。今日は初めて一般のお客さんが入られたので、その動きを見て、さっそくアップデートしたくなっています。「できるだけ実験しよう」というスタンスなので、一度見た方も、次に来られたら全然違うものになっているかもしれませんよ(笑)。
文化発信拠点「VS.」として
コミュニティ作りを仕掛けていく
――新しい文化装置としての「VS.」について、どうお考えでしょうか。
実は何年も前からVS.のプロジェクトに参加し、海外の状況を情報提供したり、海外の錚々たるアーティストたちにヒアリングすることを提案したりしていました。こういったメディアアートを発信できる美術館やギャラリーは、海外にはたくさんあるのですが、日本にはまだほとんどありません。たとえば音についても、日本のギャラリーは商業施設の中にあったりして、なかなかこれだけの大音量は出せません。でもイマーシブ作品において音はすごく重要な要素で、ロンドンやパリでは壮大な音響設備を持ったイマーシブギャラリーができています。その点VS.は独立した建物で、しかも地下。音響的には申し分ありません。
もちろん駅から近い、便利な立地なのも魅力ですよね。また大阪というロケーションも、万博を控えて海外からの注目が集まる、良いタイミングです。
――ほかのクリエイターにも、VS.をお奨めしていただけますか?
「めちゃめちゃでかいギャラリーがあるよ!」と(笑)。クリエイターが使いたいのはきっと、天井の高い[STUDIO A]。[V Space]は難しいお題かもしれません。ほかの作家によってどう使われるか、楽しみですね。
今回の個展は、この館のスペックを見せるためにデモンストレーションとして作った、という側面もあります。僕の展示を見て、(他のクリエイターが)空間の使い方を考えてみるきっかけになれば嬉しいです。
今後目指すのは、VS.で作ったコンテンツを外に向けて発信していくこと。そのためには、たとえば今回の作品を通してレクチャーやワークショップ、討論会を行うなど、コミュニティができていく仕掛け作りが必要でしょう。そこからまた新しい作家や作品が…と、拡がっていくと面白いですね。
――9月22日(日)・28日(土)にナイトイベントも予定されています。
僕を含め3名で、[V Space]でDJをします。ギャラリーや美術館でDJイベント、というのも、海外では普通ですが日本では意外性があるかもしれませんね。映像が使えるのでVJっぽいことをしても面白いかな。ただ踊るだけでなく、それ以外にも楽しめる要素をもっていきますよ!